研究内容

宇宙に存在するあらゆる物質を元素の集合と考えたとき、その基本的 な構成要素は原子ですが、原子の性質を特徴づけているのは原子の中 心にある原子核です。原子番号は原子核中の陽子の数によっ て決まっていて、原子の直径の僅か1万分の1拡がりしか持たない原 子核には、原子質量の99.97%が集中しています。また、原子核に は莫大なエネルギーが蓄えられていて、そのエネルギーは重力と並ん で宇宙の進化を駆動するエネルギー源になっています。つまり、原子 核の成り立ちは、宇宙における物質の成り立ちに直結していて、 原子核物理学とは、すなわち、物質の根源を探る学問なのです。 当研究室では、原子核内部で起こる超稀な現象や、自然界に存在しな いハイパー核・陽子/中性子過剰核を調べることで、量子多体系とし ての原子核の性質を調べると共に、宇宙を構成する物質の起源を解明するこ とを目指しています。

原子核におけるクラスター状態の探索

原子核では、複数の核子が強く相関してクラスターを構成する特異 な状態が存在しています。たとえば、12C や24Mgなどの原子核では、4Heの原子核である αクラスターが最低エネルギー状態に凝縮した「アルファ凝縮状態」が現 れると予測されています。この状態は通常の原子核に比べて密度が 1/5しかない低密度状態だと考えられていますが、いまだに実験的 には確認されていません。一方、陽子と中性子の数が異なる原子核 では、余剰な中性子/陽子がαクラスター間の軌道を占有しクラス ター分子状態が現れると期待されています。 そこで、我々のグループでは大阪大学核物理研究センターにおいて MAIKoアクティブ標的(左図)を開発し、 クラスター状態の探索をおこなっています。

宇宙における元素合成過程の解明

今から約138億年前に我々の宇宙が誕生した直後には、まだ一切の 元素が存在していませんでした。現在の宇宙に存在するすべての元 素は宇宙の歴史の中で原子核反応によって生み出されてきました。 元素を合成する原子核反応率は実験によって決定する必要がありま す。宇宙で最も重要な元素合成反応のひとつは3つ の4He(α粒子)から12Cを合成するトリプ ルα反応(左図)です。我々のグループでは高温度環境下でのトリ プルα反応の反応率の測定に取り組んでいます。 トリプルα反応を含む恒星内での元素合成についての解説記事こちらを ご覧ください。

不安定核の構造解明による有限量子多体系

陽子や中性子が極端に多い不安定核では、安定核周辺の原子核とは異な る構造をもつことが解明されつつあり、研究を通して有限量子多体系で ある原子核の理解を目指しています。また、不安定核の構造解明は宇宙 での元素合成過程に影響を与える点からも重要である。我々のグループ では、様々な不安定核ビームを用い、γ線核分光の手法による原子核構造 の解明を進めています。研究は、埼玉県和光市の理化学研究所、カナダ のTRIUMF研究所(左図)、大阪府吹田市の大阪大学核物理研究センターで実施し ています。
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二重β崩壊による粒子数保存則の破れの探索と宇宙から消えた反物 質の謎の解明

現在の物質優勢(反物質がない)宇宙を物理法則で説明するには、粒子と 反粒子が転換可能(粒子数非保存)であることを検証することが鍵である と考えられています。ニュートリノが粒子と反粒子が同一であるマヨラ ナ粒子であれば、粒子数保存則を破ることになり、その検証は「ニュー トリノ欠損二重β崩壊」の探索で可能となります。我々のグループ では、神岡地下実験室に設置されているCANDLES検出器(左図)で行い、粒 子数非保存過程の発見を目指しています。
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ストレンジクォークを含む原子核の研究・一般化されたハドロン間力の解明

原子核中にストレンジクォークを持つハイペロンやK中間子を導入する と、自然界に存在しないハイパー原子核を生成することができます。当 研究室では、その核構造からハドロン-核子間の相互作用の情報を引き 出し、一般化されたハドロン間力の理解を深めることを目指しています。 特に、中性子過剰な状態でのラムダハイペロン-核子間相互作用、シグ マハイペロン-核子間相互作用、2個のラムダハイペロン間の相互作用に 焦点を当て研究を行っています。研究は茨城県東海村の大強度陽子加速 器施設(J-PARC)で実施しています。左図はJ-PARC K1.8ビームライ ンの様子です。
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核反応断面積や核モーメントによる不安定核の核構造の研究

陽子数-中性子数のバランスが崩れている珍しい原子核(不安定核) について、原子核同士の衝突確率や電磁気モーメントを測定し、陽 子・中性子分布やそれぞれの核半径、さらには原子核内部の核子軌 道の情報を得て、核構造を研究しています。たとえば、陽子と中性 子がほぼ同数の原子核の中では陽子と中性子はほとんど同じ半径で 分布すると考えられていますが、陽子に比べて中性子が多くなって くると、中性子分布半径の方が陽子より少しだけ大きくなると考え られています。その大きくなる程度は、中性子星の構造や超新星爆 発など宇宙物理学の問題と深く関連しています。また、それらの情 報から元素合成の謎や、物質創成につながる時間反転対称性など自 然界の対称性の解明もめざしています。
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β線核磁気共鳴法やミュー粒子スピン共鳴方法による結晶内超微細相互作用の研究

原子核のベータ崩壊や素粒子ミュオンの崩壊により放出される電子 または陽電子は、弱い相互作用における空間反転対称性の破れ(パ リティ非保存)によりスピンの方向に対し非対称な角度分布を示し ます。この性質を利用すれば、不安定核やミュオンを用いて物質内 部の電磁場の様子を非常に高い感度で探索することが可能となり、 物質科学においても貴重な情報をもたらしてくれます。千葉県の放 射線医学総合研究所HIMAC施設では、スピン の向きが揃った(偏極した)不安定核ビームを生成し、ベータ線検 出核磁気共鳴(β-NMR)法による研究を行っています。最近、液体 のニトロメタン(CH3NO2)や水 (H2O)試料中における、窒素の短寿命同位 体17Nの精密β-NMRスペクトル測定 (左図)に成功しまし。液体中に打ち込まれた窒素イオンがどのよ うな化学種を形成するのかが明らかになりつつあります。またミュ オンスピン回転/緩和(μSR)法を用いて、水素貯蔵材料中におけ る水素の挙動研究などを国内外のミュオン実験施設を用いて行って います。
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